作・演出は『焼肉ドラゴン』の鄭義信。
1965年、「アリラン峠」という在日コリアンの住む炭住の町が舞台だ。
この町には理髪店を営む
ファッション・デザイナーを夢見てもがいていたが銀行員となり、バブルもその崩壊も経験した初美の息子・大吉(森田甘路)が回想するスタイルで、物語が動き出す。
高と同居するのは次女・須美夫婦。だが、須美の夫・成勲(松重豊)と春美の夫・大杉昌平(森下能幸)は炭坑の爆発事故で一酸化炭素中毒になる。
須美たちはその救済を求めて、会社や国家に裁判を起こすが受け入れてはもらえない。
やがて春美は中毒の苦しさを訴える夫を殺害……。
長女の初美一家は大阪に、須美の夫の弟は北朝鮮にと、町を離れていく。
そして須美、夫と父だけが町にとどまる。
やりきれなく、切なく、でもとても美しい物語……。
鄭義信は「記録する演劇」という言葉を生み出した。
在日のこと、一酸化炭素中毒患者と家族の苦しみ……
こういう歴史の上に私たちの今があるということ。そして問題はまだ終わっていないということををつきつける作品でもある。
南さん、根岸さん、松重さんはじめ、すべての役者が熱演。
むき出しの生な感情のぶつかりあいが心にしみた。
そして、胸にナイフで刻まれたかのように、洪吉の「生きていかなならん」という言葉が深く残る。
出会えてよかったという傑作でした。
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