2012年3月27日火曜日

3月25日 新国立劇場小劇場「パーマ屋すみれ」



作・演出は『焼肉ドラゴン』の鄭義信。


1965年、「アリラン峠」という在日コリアンの住む炭住の町が舞台だ。


 この町には理髪店を営む高洪吉()(青山達三)と、その三姉妹の初美(根岸季衣)、須美(南果歩)、春美(星野園美)が暮らしている。


 ファッション・デザイナーを夢見てもがいていたが銀行員となり、バブルもその崩壊も経験した初美の息子・大吉(森田甘路)が回想するスタイルで、物語が動き出す。


 高と同居するのは次女・須美夫婦。だが、須美の夫・成勲(松重豊)と春美の夫・大杉昌平(森下能幸)は炭坑の爆発事故で一酸化炭素中毒になる。
 須美たちはその救済を求めて、会社や国家に裁判を起こすが受け入れてはもらえない。

 やがて春美は中毒の苦しさを訴える夫を殺害……。
 長女の初美一家は大阪に、須美の夫の弟は北朝鮮にと、町を離れていく。
 そして須美、夫と父だけが町にとどまる。


 やりきれなく、切なく、でもとても美しい物語……。
   
 鄭義信は「記録する演劇」という言葉を生み出した。
 在日のこと、一酸化炭素中毒患者と家族の苦しみ……
 こういう歴史の上に私たちの今があるということ。そして問題はまだ終わっていないということををつきつける作品でもある。


 南さん、根岸さん、松重さんはじめ、すべての役者が熱演。
 むき出しの生な感情のぶつかりあいが心にしみた。
 そして、胸にナイフで刻まれたかのように、洪吉の「生きていかなならん」という言葉が深く残る。
 
 出会えてよかったという傑作でした。

2012年3月26日月曜日

3月24日 横浜の夕暮れ

横浜の大桟橋から港を望む




刻一刻と変わる空の色、港の景色……


山下公園とライトアップされた氷川丸。


雲の色や形もドラマチック。
この港で、この瞬間も、様々な人々の営みが続けられているのですね。
 横浜大桟橋で開かれたフラダンスのフラフラ・フェスティバルに参加。
 港の美しい風景に、ちょっと旅気分になった一日でした。

2012年3月24日土曜日

3月23日 新橋演舞場「三月大歌舞伎」夜の部

『東山桜荘子「佐倉義民伝」』  
 堀田家の暴政に苦しむ人々のために、四代将軍家綱に直訴した木内宗吾を描く、史実に基づいた作品。
 なんと今回は1階の前から1列真ん中。
 雪に見立てた紙吹雪が膝に舞い降りてくるような神の席でした。
 
 人々のために、ひとりの人間としての幸せをあきらめる宗吾(松本幸四郎)。最後まで家族を思い、これでもかと苦悩するさまが伝わってきてじぃ~ん。
 女房のおさん(福助)も、凛としてけなげな感じが現代にも通じる素敵さだった。
 家綱(染五郎)の立ち姿もとてもきれいだった。


 振り続ける真っ白な雪の背景から一転、「東叡山直訴の場」の桜の季節に舞台がかわったときは息をのんだ。。
 その鮮やかなこと、華やかなこと。たまりません。
 
 幸四郎、家綱役の息子の染五郎さん、宗吾の長男彦七を演じる孫の金太郎さんと、三代が勢ぞろいというのも、歌舞伎ならではの楽しみでした。


『唐相撲』
 重い題材の『佐倉義民伝』」の後に、明るく軽やかなこの演目でちょっとホッ。
 勝負がつくたびに酒をふるまわれ、また勝負を重ねる相撲取りの日本人(菊五郎)の汗粒まで見えた。アクロバティックが動きもよかった。
 それから皇后(梅枝)。気品があって美しい。


『小さん金五郎』
 上方歌舞伎。
 金五郎(梅玉)は明るく愛嬌がある。
 小さん(時蔵)は粋できれいで品があって、本当にかっこいい。これなら50両だしちゃうって、納得できてしまうのだ。
 お糸(梅枝)も本当にきれい。時蔵の息子さんとのこと。


 そして、ふられ役のお鶴(秀太郎)がとても生き生きして、存在感が際立っていた。


 歌舞伎はまったくの若葉マークなのですが、気持ちがふわ~っと軽くのびやかになるような舞台だと感じました。
 

3月23日 東京宝塚劇場「エドワード8世/Misty Station」月組


ついにこの日が来てしまった。霧矢さんの退団公演の幕開けである。

ミュージカル『エドワード8世』-王冠を賭けた恋-
作・演出/大野拓史

 「王冠を賭けた恋」として有名な、英国王エドワード8世と、アメリカ国籍のウォリス・シンプソン夫人の恋愛譚。モダンな感覚と気さくな人柄が人々に愛されたエドワード8世が王の座を捨てた生きざまを史実に基づきつつ、霧矢さんの魅力たっぷりに描く。

ブリリアントステージ『Misty Station』-霧の終着駅-
作・演出/齋藤吉正

 夜明け前のプラットホーム。始発列車の汽笛は青年を未知なる旅へと誘う。出会い……、恋……、別れ……。青年の旅先でのトピックスを華やかなショーシーンで展開するドラマティックなショー作品。

『エドワード8世』では、霧矢さんの高貴な演技に圧倒された。

皇太子の彼のまわりに集まってくるのは彼の人気を利用しようとする人ばかり。たが、彼はいつか一人の男性として愛してくれる女性と出会いたいと願っていた。
蒼乃さん演じるウォリスもまた、デイヴィッドを利用しようと近づいたのだが、やがてふたりは次第に惹かれていく。しかしウォリスは人妻。将来の国王とアメリカ国籍の人妻とが結ばれる可能性はない。

 互いに憎まれ口を叩きながら、次第にふたりが寄り添い、絆を深めていくところがいい。

そして愛する人のためにすべての地位や究極の名誉を投げだすデイヴィッド。
そのロマンチックなこと。
王室に別れを告げ、新しい世界へと旅立つデイヴィッドの姿に、霧矢さんの卒業が重なって胸が熱くなる。
そしてクライマックスシーン。銀橋の真ん中に立った霧矢さんの歌が、大劇場の隅々にまで響き渡る。歌声で空間が満ちる。

 ショーは青年Mistyが世界で一番の宝物を探しに、冒険の旅へと旅立つストーリー仕立てになっていた
霧矢さんとともに今公演で退団する、蒼乃さんの魅力全開のダンスシーン、青樹さんのソロの歌やダンスなどそれぞれの人に光があたり、そのたびに胸がいっぱいになる。

列車の座席で眠りこんでいた霧矢さんが目覚めたところから、サヨナラモードに。
月組の仲間たちと互いの顔を見交わすシーン、そして黒燕尾の群舞。
「マイ・ウェイ」のデュエットダンス……。

それぞれが霧矢さんの魅力がスパークするような、そして宝塚の魅力をぎゅっと詰め込んだような演目だった。

 霧矢さんは飛び抜けた歌唱力、王道をいくダンス、豊かな表現力の芝居と、3拍子揃った稀有な男役トップとして宝塚の一時代を築いた人である。
 宝塚生活18年。
 
 通し稽古の立ち取材で、霧矢さんは次のように言った。
「新たな気持ちでとか、最後だから、という意気込みは特にありません。東京のお客さまにも喜んでいただける舞台を、またお届けしたいなと考えています。(今回の作品が最後の公演にふさわしい内容になっていることについて)自分の心境にシンクロする部分はすごくあるのだけど、それをお客さまに伝えることが仕事です。自分たちだけの感情で思いつめ過ぎず、皆様にいろんな感情の取り方をしていただけたらいいです。(宝塚は)自分の人生を捧げられる、情熱を注げる、そんな場所ですね。千秋楽まで、その気持ちは変わらないので、一応“終着駅”といいますか、そういった視点はありますが、常に前進し続けたい、進化し続けたいと思っています」
 417日にもう一度、霧矢さんのこの舞台を見に行く。
  
 素晴らしい男役。
 もう2度と見ることができないと思うと、立ち見でもいいから、何度も駆けつけたいくらい。
 本当にさびしいです

2012年3月22日木曜日

3月21日 紀尾井小ホール 邦楽ドラマ『竹本綾之助物語 -明治が求めた天才少女の栄光と苦悩-』

初代竹本綾乃助 没後70年特別公演。
明治時代、人気を博した女流義太夫・初代竹本綾之助の生涯を描く。
主演は山本陽子さん。

 同時代人で早世した樋口一葉役の光本幸子さんが好演。
 何気ない言葉にも、力量ある役者は命を与えうるのだということを、光本さんが見事に体現していた。着物を着た動きの美しさも素晴らしかった。

 浄瑠璃として舞台に参加した今は4代目となる竹本綾之助さんも、聞きごたえがあった
ロビーには山本陽子さんが描いた日本画のミニ屏風が一双(2枚一組)が飾られていた。
上のタイトルは「秋麗」

こちらは「典雅」

見事な筆!

2012年3月21日水曜日

3月20日 「つや姫」と薔薇の花

 薔薇の花束が届きました。
 贈って下さったのは、山形県寒河江市で「つや姫」を生産している土屋喜久夫さん。土屋さんは、山形県がブランド米として生み出したつや姫を、生産者の立場から育て上げた人です。
  
 「つや姫」はコシヒカリを超える米として、その美味しさに注目が集まっています。
 老舗の料亭・吉兆や菊乃井、イタリア料理の名店・アルケッチャーノでも採用されています。
 おかずが減らないほどのおいしさです。
 ぜひ食べてみてください。
 土屋さんからお取り寄せもできます。
 四季ふぁーむ さがえのつちや ☎0237・85・2280

 三越、伊勢丹、イトーヨーカドーで販売されています。

夢のようにきれい。家の中に薔薇の香りが漂って幸せ気分。
この薔薇はやはり山形県寒河江市の「早坂バラ園」のもの。
早坂バラ園☎0237・86・5866 お取り寄せも可。

薔薇の匂いは優しく幸せな気持ちにしてくれる。
ステラ・マッカートニーのオーデコロン、
ロクシタンのボディクリーム、ハンドクリーム、練り香水。
薔薇の匂いのものを集めて愛用しています。

2012年3月19日月曜日

3月18日 マリンバの名手・市川みどりさん

Sekiさんの友人で、マリンバの演奏家で指導者でもある市川みどりさんを訪ねた。

市川さんは武蔵野音楽大学器楽科マリンバを卒業。50歳から海外でコンサートをはじめ、今ではニューヨークと所沢を行ったり来たりしている。先日、クロアチアで開いたコンサートも好評で、今年の夏の音楽フェスティバルにも招聘されたとのこと。カーネギーホールでもコンサートを。

マリンバの演奏というとほとんどがコンテンポラリーで、音楽的に?????のものが多いのだが、市川さんはいわゆるクラシックを中心に演奏している。

「有名になりたいといったような欲はないんです。弾きたいものを弾いて、その音楽を感じてほしい。それだけ。だからチャレンジができるのかもしれませんね」

 市川さんは指導にも力をいれており、音大に進学を希望する子どもたちの指導に定評がある。
 そればかりでなく、 右手と左手、ばらばらに動かすことができない知的障害のある子どもや自閉症児などをも、1対1で根気よくマリンバの世界に誘っている。
 左右違う動きを何年もかけてマスターし、マリンバの演奏ができるようになった人も。その子たちの演奏会をニューヨークで開いたときには、「奇蹟だ!」と絶賛され、アメリカでそうした子たちへの指導を行ってほしいと熱望された。

「1対1の指導で何年も時間が必要です。そして障害がある子が左右異なる手の動きをするようになるためには、その子自身も大変な努力が必要です。けれど、それができるようになったとき、ただ両手が別々に動くというだけでなく、その子に新しい可能性が広がる。音楽の楽しみも深くなります。子どもたちの新しい可能性を信じて、少しでも障害を克服する方向にと導くお手伝いができればと思っています。これからも私ができることを精いっぱいやっていきたいですね」

 市川さんは高知県出身。
「チャレンジが好きなのは竜馬の血が流れているからかも」
 素敵な出会いでした。 
市川さんのマリンバは音色の豊かさで高く評価されている。
「叩くのではないんです。包丁で切るときと似ているかもしれません。柔らかいものを切る、小さなものを切る、連続してトントントン動かす。大きく固いものを切る……。それぞれ違うでしょう。思いを込めて、そういう感じで音色を変えていくの」
  
鍵盤の下にあるホーンのようなものが豊かに響く。

マリンバにもたくさん種類がある。

ニューヨークでの演奏会後に制作してもらったメモリアルブック。

メモリアルブックの1ページ。マリンバを演奏する市川さん。すらっとした美人でもある。

2012年3月18日日曜日

3月17日 赤坂ACTシアター「地球ゴージャス~怪盗セブン~」

 
赤坂ACTシアター怪盗セブン

「地球ゴージャス」は、俳優の岸谷五郎さんと、寺脇康文さんが主宰する歌と踊りと笑いに満ちたオリジナルのエンターテイメントを追及する劇団ユニットだ。今年で18年目を迎える。
今回のゲストは大地真央さん。
かつて7つの海を盗み出した7人の大怪盗がいた。その名も「怪盗セブン」。彼らに盗めぬものはなく、彼らに触れた人はいない。だが1通のInvitationが届けられ、彼らが一堂に会し、動き始める……。

歌ありダンスあり、アクションありと、いろんなものを盛りだくさんに詰め込んだ舞台。派手な衣装に身を包み、切れのいいダンスを見せる三浦春馬さんがいい。大地さんの華やかさには脱帽。

いつしか地球ゴージャスの世界に入り、楽しむことが出来た。舞台と観客席が近い世界なのだなぁと思う(もっと小さい劇場の方がぴったりくる作品なのかも)。

観客もよく笑い、その世界に浸っていた。

けれど、プロローグが長いとかダンスの振り付けが単調だとか、エピソードを少し整理してほしいとか、冗長な部分とか、気になるところもあった。
ファンクラブを持ち、たくさんの会員が毎回楽しみに駆けつける舞台なので、観客はとても温かい。だからこそ締めるべきところはきっちり締めないと……。


それにしても、大地さんの若さ。
まるで作り物のような、完璧な美しさでありました!

2012年3月15日木曜日

3月14日 世田谷パブリックセンター「サド侯爵夫人」、東京宝塚劇場「愛のプレリュード/ル・パラディ」花組

演出:野村萬斎
サド侯爵夫人ルネ:蒼井ゆう
ルネの母・モントルイユ夫人:白石加代子
サン・フォン伯爵夫人:麻実れい
シミアーヌ男爵夫人:神野三鈴
ルネの妹アンヌ:美波
モントルイユ家の家政婦:町田マリー。

舞台中央に下ろされていた青銅製のシャンデリアを家政婦が上にあげるのを機に、物語が動き出した。
三島由紀夫の『サド侯爵夫人』。
舞台は絶対王政が爛熟を極め、頽廃の色濃い18世紀末のパリ。サド侯爵は数々の乱行から逮捕・投獄を繰り返していた。そんな夫に対して、侯爵夫人・ルネは貞淑であることを貫こうとする。一方、ルネの母・モントルイユ夫人は体面や道徳を重んじ、ルネに別離をうながす。そこで、夫人はサドさながら自由放埓に暮らしているサン・フォン伯爵夫人や信心深いシミアーヌ男爵夫人をもつかい、計画を進めていく……。

 3時間45分という大作である。
しかし3幕目が始まる直前、会場が大きく揺れた。215分だった。
人々のどよめきが続いた。こういうとき、人は揺れるものを見つめるものらしい。観客ほぼ全員が天井で揺れる照明を凝視していた。

 千葉東方沖を震源とする地震である。
 千葉県北東部と茨城県南部で震度5強。
 我が家は千葉県にある。残念だったが3幕目をあきらめ、帰宅することに。

 というわけで今回は2幕目までの感想です。

「詩情あふれる美文が精密を極めている」と絶賛され、三島戯曲の真骨頂といわれるこの作品。
美しく格調ある言葉が寄せては返す波のように、これでもかこれでもかというほど次々に発せられる。
だが、人の胸にそうしたセリフをちゃんと届けるのは難しい。
役者のひとつひとつの言葉がくっきりと立っていなければならない。正確で明瞭で、なめらかなエロキューション、美しさを際立たせるイントネーションが求められる。
そして、何よりその言葉への理解、思いの深さがなければそこに生命が宿らない。
芝居では“肉体化した言語”ということがよくいわれるけれど、この作品が求めるのはそれなのである。
美しすぎる言葉。だからこそ、役者の力量がより厳しく問われるのだ。
言葉を肉体に叩き込み、その肉体から発せられる言葉でなければ嘘くさくなってしまい、言葉のきらめきはたちまち失われてしまう。
だがもし、役者の発する言葉がそれだけの圧倒的な力を持てば、美しさと怖さが何倍にもなって輝きを放ち、観客の胸を照らしてくれる。
そのことを教えてくれたのは、麻美れいさんである。

言葉……そして肉体の動きもまたぞくぞくするほど美しい。言葉とシンクロするように体が自在に動くのだ。もちろん表情も。
言葉と肉体と表情が三位一体となり、サン・フォン侯爵夫人という、自由で放埓で、不道徳であると同時に、官能的でありエロティックである人間が舞台上に、見事に浮かび上がった。

麻実さんにサン・フォン侯爵夫人が宿ったかのようだった。

見どころはモントルイユ夫人とルネが積み重ねていく言葉の応酬なのだが、白石さんはちょっとお疲れだったのだろうか、白石節がひとつのパターンと感じられるほど、単調だった。蒼井さんは、表情も体の動きもが乏しかった。
ルネの多面性が、ときにハッとするほど、あるいはゾっとするほど舞台上に次々に現れたら、どうだったのだろう。どんなに心震えただろう。素晴らしい資質を持つ蒼井さんだからこそ、いつかもう一度、この役に挑戦してほしい。

衣装についてもひと言言わせてほしい。サン・フォン侯爵夫人とアンヌが1幕で着ていた大げさなスカートを2幕目で軽くしたのは演出の意図が伝わってきて、とてもよかったと思う。
一方、モントルイユ夫人とルネは同じなのはなぜだったのだろう。時間が経過し、ふたりの関係も変化したことを伝えるためにも、衣装やヘアスタイルなど変えた方がよかったのではないだろうか。そして全体にもうちょっと統一感がほしいとも思った。
 
 電車を乗りつぎ、最寄りの駅にたどり着いたときにはホッとした。
 そして自宅まで歩きながら、昨年のことを思い出した。
 
 昨年325日、余震が続く中、東京宝塚劇場・花組公演「愛のプレリュード/ル・パラディ」を見た。311日に東日本大震災が起きて以来、初めて劇場にいったのだった。
花組トップ男役・真飛聖さんの退団公演となる作品だった。
 力のある舞台だった。真飛さんと組子ひとりひとりが交感する、愛という言葉以外に適当な表現が見つからない、限りなく優しい感情の渦が舞台上にはっきりと見えた。
そしてその渦から陽だまりのような温かさが客席にど~っと流れてきて、私を包むのを感じた。
 
真飛聖さんは、春野寿美礼さんのあとに花組のトップについた男役である。
骨太でしなやかな演技が魅力的だった。ため息がでるほど黒燕尾が似合っていた。

花の業平の在原業平、虞美人の項羽、大王四神記のタムドク、エキサイターのMr.YU、麗しのサブリナのライナス、ベルサイユのバラのアンドレ、相棒の杉下右京、ロマンチック・ジゴロのダニエル、ミー&マイガールのビル、愛のプレリュードのフレディ・クラーク……水もしたたるようないい男という表現は、真飛さんのためにあると思った。

王子様的な役柄や爽やかな男役はもちろん、孤独に耐える男や陰影のある役もよかった。
オールバックにすると、男くささがムンと出てくるのも素敵だった。
どんなダメンズでも、ミスターYUのようなコケティッシュな役を演じても、どこかに粋な感じと高貴さ、そして懐の深い優しさがあった。

自分だけでなく舞台に立つすべての組子に光を当てようと心配りをする人でもあった。その思いが舞台にいつも流れていた。
組子たちはヴィヴィッドにそれを感じとり、喜びと信頼を真飛さんに向かって放ち、双方向の優しく温かなエネルギーが舞台上で交錯する。
そして明るく弾力ある力で観客をしっかりと包む。「楽しんでほしい。そのために私たちは存在しているのだ」という彼らの思いが客席の隅々まであふれる。観客として存在する幸せを、何度感じたことだろう。

春野さんが築き上げた花組が、春風の吹く王国なら、真飛さんが作った花組は愛に満ちた、まさにル・パラディだった。(どちらも、大好き!)

25日のその日、真飛さんは初日を開けるにあたり、震災が起きたこんなときに舞台を務めていいのか熟考したと切り出した。
そして考え抜いた結果「私たちに出来ることは最後まで舞台を務めることだと思った」とひとつひとつ言葉を選びながら言い切った。
さらに被災地のファンに対して「いつか宝塚を見るという夢を心に持ち続けてほしい」とも。その真摯な表情は今も忘れられない。

そして彼女は東京公演の1ヵ月間、終演後、激しいショーで吹き出る汗を軽く押えただけで、すぐにロビーに飛び出し、募金のために立ち続けた。

同じ日の夜、佐久間良子さんの邦楽ドラマ浪花女ー「壺坂霊験記」誕生物語も紀尾井小ホールでみた。
帰りが遅くなってしまうため、突然の計画停電に備え、バッグの中に懐中電灯を忍ばせての観劇だった。

あれから1年がたった。
早いとか遅いとか、よくわからない。でも、やっぱり長かったように思う。

昨年の5月に、やはり見ておかなければと、思い切って仙台の沿岸にいった。むき出しの茶色の汚れた土が見渡す限り広がっていた。
泥の海に浮かぶ小島のように、ポツンポツンと柱と屋根と壁だけになった家がたっていた。
「ここには何十件も家が立ち並んでいたんですよ。枠はあっても残った家も住めません。中が全部やられていますから」
 1軒だけのこった家の前を通り過ぎた時、タクシーの運転手さんがいった。
「あの日、仙台空港で客待ちをしていた私の車はここまで流されたんです」
 差し出した指先には、大地の上にごろりごろりと置き去りになったヘリコプターやセスナが見えた。
 “津波がきた!”という声が聞こえ、車を捨て、空港の階段を駆け上がり、屋上で一昼夜を過ごしたという。
 
 1年たっても、復興はまだ進んでいない。
 原発も収束していない。
大地も揺れ続けている。
  

ところで、あのときロビーで募金活動を続けた真飛さん。退団して以降ネスカフェのCMに出演しただけで、本格的活動は始めていない。
真飛さんは宝塚の中でも、芝居心があって、歌えて踊れて、とびきり美しくチャーミングな役者だった。
このまま舞台から降りてしまうのは、もったいなさすぎる。

そろそろ活動開始しては、いかがですか。
真飛さんの新たな舞台が見たい。
そう思っているのは、私だけではないはずです。

【ご報告】
春野さんの東宝「エリザベート」、東京公演の初日と千秋楽のチケットをゲットしました! 
素晴らしいっ!
 今からワクワクが始まっています。