2012年6月17日日曜日

6月14日新国立劇場「サロメ」


新国立劇場 中劇場
作:オスカー・ワイルド 翻訳:平野啓一郎 
演出:宮本亜門 出演:多部未華子、成河、麻実れい、奥田瑛二

舞台はエルサレムの宮殿。兄を殺してその妻・ヘロディアを自分のものにしたヘロデ王が宴を開いている。その晩、王女サロメは、地下の井戸に閉じ込められた預言者ヨカナーンの存在を知った。ヨカナーンはヘロデが、兄弟の妻であったヘロディアを略奪したことを批判して投獄されていた。そのヨカナーンに惹かれていくサロメ。だが、ヨカナーンはサロメを拒絶する。ヘロデ王に踊りを求められたサロメは、その代わりにヨカナーンの首を要求する。

サロメといえば妖艶なファム・ファタルというイメージ。
妖艶に踊るサロメの姿と、そこに出現するヨハネの首……。

しかし、今回の宮本「サロメ」は違う。
サロメは、無垢ゆえの残酷さを持つ、大人になる直前の少女として描かれる。何しろテディベアを抱いて登場してしまうのだ。
こういうサロメもあるんだなぁ。
もうちょっと何かがほしいような気がしたけど、とてもフレッシュだった。

多部さんは、表情豊か。
少女の青み、つぼみの固さ、まっすぐな激しさを、体当たりで魅力的に演じた。
目力が……いいっ!

ヨカナーン役の成河(ソンハと読む)さんは、預言者の清廉さとサロメと出会い揺れ動く心など印象的に表現。そのビジュアルはレオナルド・ダ・ヴィンチの名画『洗礼者聖ヨハネ』にインスパイアされたものだという。
プログラムの中に、ダ・ヴィンチの絵が紹介されていて、改めて、その色っぽさ(!!)にはっとした。モナリザを思わせる端正な顔立ちと微笑み、ふっくらとした体のはり、性を超越した美しさである。


奥田瑛二さんのヘロデ王は残念。実の兄を殺し、妻を奪い取り、他にも残忍なことをやりまくってきた王という感じが全然しない。セリフもひたすら軽く単調。過去の悪行に対する恐れ、自分の死への恐怖が伝わってこない。ヨカナーンの首をねだるサロメを拒否する切実さが感じられない。
そのため、物語の核のところが小さく弱くなってしまったと思う。
ヘロディアの連れ子・サロメにちょっかいをだしたくなって「領地の半分をやろう」、ついには「望みを何でも叶える」「何でも」とまで調子よく言っちゃって……「ヨナカーンの首を」と言われたとたん、うろたえる……。
そんな情けない男ではなく、もっと骨太でぎらぎらして……それ故に自らの過去に恐れおののく震えるような弱さが際立つような王を演じてほしかった。

麻実さんは美しさ、妖艶さ、女王としての品格や威厳、そして怖さも感じさせて、ヘロディアそのものだった。
絶対に期待を裏切ることがない麻実さん。
先にある輝く光を常に見つめ続けている人なのだと思う。
自分を律する強さ、細やかさ。
その背中を見つめ、追いかけていきたい! 

舞台のしつらえも、とてもおもしろかった。
 客席前方を取り払い、ステージの周囲を水が入った濠で囲み、地下はヨカナーンのいる牢獄、1階は白を基調としたテラス。
舞台天井には巨大な鏡が据え付けられ、舞台すべてを反転させて映し出している。実像、虚像等しく虚という演出か!?

 皿に盛られたヨカナーンの首がサロメに差し出されるとテラスに真っ赤な血が流れ始め、やがて床全体を覆いつくすところは、赤の美しさと圧倒的な残酷さが際立った。

終演後、亜門さんとヨカナーン役の成河さんによるアフタートークもあった。
亜門さんと役者さんたちが真剣な話し合いを重ねて役作りを深めていく様子がうかがわれて、感動。成河さんの芸に対しての真摯さが伝わってきた。
 今後も期待したいっ♡

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