2012年1月6日金曜日

1月6日布施秀利「はじまりはダ・ヴィンチから」

 ときどき、手にとりたくなる本がある。その一冊が、布施秀利氏の「はじまりはダ・ヴィンチ」(エクスナレッジ)。布施さんの専門は美術解剖学……耳慣れないジャンルだが、これは人体をとおして“美”を発見し、造形活動に生かすための学問だとか。

 布施さんは東京芸大で美術解剖学を、そして東大医学部の養老孟司研究室で10年間助手を務め、実践的な解剖学を学んだ。そうした体験から、芸術で表現される人間を内部の体の構造からとらえる。また芸術の本質を体感からずばりと感じ取る。

 布施さんならではの斬新な視点で、レオナルド・ダ・ヴィンチを皮切りに、現代アート、映画、アニメ、フィギュア、ファッション、建築など、50人の美術家を取り上げている。
 これがめっぽうおもしろいのだ。

 ダ・ヴィンチは「固定した教育や、先入観でものごとを進めずに、自分の目で確かめて、世界を切り拓いていった。~(中略)~だから天才となった」と布施さん。
 その根拠はといえば……ダ・ヴィンチの描いた解剖図だ。
 
 ダ・ヴィンチ以前の骨の絵は骸骨が立ってポーズをとっているようなもの。

 しかし、ダ・ヴィンチは「骨格の「部分」」を描いているのだそうだ。
「よく見ると、そういう解剖図の構図の真ん中にあるのは、骨と骨をつなぐ関節である。つまり、ダ・ヴィンチは「関節」に焦点を当てることで、人体がどのように動くか、その動きの仕組みを探求した。人間を機械のように見ていたのだ」と。 

 そして、布施さんは、ダ・ヴィンチは「部分」の発見者であり、「死体というものの存在を発見した」人であると、具体的な例をあげて証明する。。
 ジネヴラ・ベンチの肖像(若い女性の肖像。こちらのすべてを見透かすような不思議な存在感がある)。 その絵を分析しつつ
「設計図のように緻密に組み立てられ、その結果、最終的に絵という装いをまとったものに思えて仕方がなかった」
「ダ・ヴィンチの絵画には絵ではない何かがある。いや、すべてを含んだ絵がある。ほかの画家が描いたのが、ただの絵だとしたら。ダ・ヴィンチが描いたのは「世界のすべて」である」
 と展開していく。

  ダ・ヴィンチの項での布施さんのアプローチ法は、美術解剖学的なものだ。でも、それだけに限らない。

 たとえば、大徳寺大仙院の枯山水の庭の美を読み解くのは、サンゴ礁の海や熱帯雨林を歩いたときの体験から得た体感だ。

「枯山水が描いているのは、まずは山奥の渓流の世界である。岩と岩の合間をにって、激流が流れる。あの岩陰にイワナが隠れているかもしれない。この石の上にカワセミが止まっているかもしれない。(中略) そうなのか! この枯山水は、そんな当たり前のことを描いていたのだ。源流からはじまり、海へとつながる川の風景、そしてじっさいに大自然の中でそんな川と向き合ったときに感じる、ある種の、自然の神秘性と、宇宙的な感覚。こうしたものをぼくは地球のあちこちで感じてきた。(中略) ここには地球の、宇宙のエッセンスがある」

 そんなふうに、レンブラント、カラヴァッジョ、ピカソ……そして三宅一生、山本耀司、藤原新也、イサム・ノグチ、黒澤明、ナンシー関まで、自在に作品の謎を解き明かしていく。
 作家の魅力、作品の力を発見した布施さんの喜びと感動が、生き生きと伝わってきて、自分もその場にいるような気がしてくる。

 「美術というものは、なにより個人によってつくられる。その個人の世界に、個人であるぼくたちが向かい合う。そこに美術体験の楽しみがあると考えられるのだ」(あとがきより)

 心と体の五感を開放して、作品と向き合う。そして、何かを発見したり、感動したり、納得したり、響きあうものを感じて嬉しくなったり……。

 自分を触発してくれるものに出会えれば、人生は冒険の旅そのものに変わる。
 この本は、ものを見る、そんなフレッシュな心を思い出させてくれるのである。

 と同時に、ものを見るということは見る側の感覚だけでなく生き方も問われることでもあると改めて感じさせてくれる。

 多少は経験を重ね、私なりに、若いときよりは引き出しやポケットが少し増えてきたような気がする今日この頃。

 びっくりしたり、大笑いしたり、がっくりしたり、感動したり。
 
 進化は、生きてる! と、心と体で感じることから始まるのかも。

 感動や嬉しさや悲しみ……そのひだを少しでも深く、豊かなものに

 人生は結構、面白いと思わせてくれる1冊なのである。
 

5日に山形から帰ってきました。5日は朝から大雪。近くの神社の鳥居の上にも雪が積もって。


枝が折れないように、実家の庭の木々は庭師が雪つりをしてくれています。


板谷峠はすごい吹雪。新幹線も減速走行!



つや姫げんまいちゃをホットで。


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